自動車騒音の歴史~道路騒音の視点から改善に貢献
こんにちは、製造部岩崎です。
先日参議院選挙がありましたが、土日は予定が入っている事が多いため、期日前投票のシステムはありがたいです。一応投票率は58.5%と、前回は上回ったようですが、他の国と比較すると、まだまだ低い数値に思えます。中身についてはあえて言及しませんが、より良い世の中になって欲しいという想いです。
さて、本日の記事では少し志向を変え、自動車騒音の歴史と改善について話したいと思います。
自動車騒音とその改善についての歴史
今では私たちの暮らしには欠かせない存在となった自動車ですが、利便性の一方で長年に渡り問題視されてきたのが自動車騒音です。エンジン音や走行音など自動車が発するさまざま音が、住環境や健康に与える影響は小さくありません。
こうした自動車騒音の問題に対して、自動車メーカー、部品メーカー、行政、防音材メーカーがどのように対策を講じてきたのかを簡単に紹介していきたいと思います。
1950〜1960年代:モータリゼーションと騒音公害の始まり
この時代、日本でも本格的なモータリゼーション(自動車の普及)が進行し、自動車の保有台数が急増しました。しかし、当時の車両はエンジン音や排気音をそのまま外部に放出する構造が一般的で、騒音に対する配慮はほとんどなされていませんでした。
主な特徴:
- マフラーの遮音性能が未熟で、音量も大きく低音域が強調された構造
- ディーゼルエンジン車の多用により、アイドリング音・加速音が非常に目立った
- 都市部では特に「騒音公害」として社会問題化し、住民の苦情が行政に寄せられるように
1970〜1980年代:法規制と初期技術対策の導入
1971年、日本でも自動車騒音に関する初の法規制が導入され、以降、排気音やエンジン音に関する規制値が段階的に厳格化されていきます。自動車メーカーもこれに対応すべく、構造面・部品面での対策を開始しました。
技術的な進展:
- 多段マフラーの採用により排気音の減衰を実現
- エンジンマウントの改良で振動伝達を抑制し、騒音の根本原因を制御
- 吸気系(エアクリーナーボックス)の改良によって吸気音の対策も進行
1990年代:NVH対策の高度化と快適性の追求
「騒音(Noise)」「振動(Vibration)」「不快感(Harshness)」という3要素を総称したNVH(エヌ・ブイ・エイチ)対策が自動車開発の主要テーマとして定着しました。単なる音の小ささだけでなく、乗り心地や感覚的な快適さまで重視されるようになりました。
技術革新の例:
- 車体構造のCAE(音響解析)を活用し、共振点やビビリ音を徹底排除
- 遮音材の最適配置により効率的な静音化
- ドアシールの多重化や遮音ガラス(ラミネートガラス)の採用
2000年代:ハイブリッド車と環境意識の高まり
トヨタ「プリウス」に代表されるハイブリッド車(HV)が登場し、モーター走行時の静音性が画期的に向上しました。燃費性能とともに「音の静かさ」がセールスポイントとなり始めました。
動向と技術例:
- アイドリングストップ機構の普及で信号待ち時の騒音が消滅
- CVT(無段変速機)による変速ショックの軽減と静音化
- アクティブノイズキャンセリングなど、電子制御によるノイズ低減技術も導入
2010年代〜現在:EVと自動運転の時代へ
そして現在、電気自動車(EV)の本格普及により、騒音の性質が大きく変わりました。
エンジンのないEVでは、外部への騒音も内部の静粛性も劇的に向上していますが、逆に「静かすぎるがゆえの安全リスク」も新たな課題として浮上しています。
最新の技術トレンド:
- AVAS(車両接近通報装置)の義務化(EU・日本)により、人工音による歩行者への注意喚起
- ANC(アクティブノイズコントロール)で車内をさらに静かに
- ロードノイズ吸収タイヤや音響設計された車室内空間など、素材・構造・電子制御が融合した総合的な対策
道路側の視点からの騒音対策~突発騒音吸音装置
上記の内容は自動車メーカーや部品メーカーの観点からの騒音対策でしたが、道路側の視点からも騒音対策はなされてきました。
静科では高速道路の橋梁ジョイント部分の騒音対策として、東日本高速道路株式会社と共同開発を行い、「突発騒音吸収装置」を製作いたしました。
ジョイント騒音は橋梁のジョイント部分を車が走行する際に発生する大きな音のことで、長年、有効な対策手段がありませんでした。この問題を解決するにあたり、静科の防音材の薄型軽量で性能が高いという特徴がピックアップされ、狭い橋梁桁下空間にも簡単に設置できる製品が開発されました。
詳しくは下記の記事などをご参照ください。
過去記事
こちらは弊社が関わったものですが、この他にも防音壁や二重窓、先端吸音装置やサイレンサーなど、時代のニーズに合わせて車メーカー以外でも様々な騒音対策製品が生み出されてきました。
まとめ:静音化の3大要因とこれから
これまでの自動車騒音対策の推進には、以下の3つの要素が大きな原動力となってきました。
- 法規制の強化(環境・安全の視点)
- ユーザーによる静粛性・快適性へのニーズ
- 技術革新(パワートレイン・材料・設計技術)
今後、EVのさらなる普及や自動運転車の一般化が進む中で、「音の快適性」だけでなく、「音のデザイン」そのものが重要な時代になっていくと考えられます。
音を「抑える」だけでなく、「適切に聞かせる」ことで安全性・ブランド性・乗り心地すべてを両立するという考え方です。静科では工業向けの「音を防ぐ」製品と、音楽向けの「音を聴かせる」製品、という大きく分類すると2つの種類の製品をご提供して参りましたが、これからはその融合が必要な時代なのかもしれません。